人事の顧客は「経営・事業・社員のトライアングル」

私が人事の職に就いたのは1990年代初めでしたが、当時、人事の顧客認識は経営と社員の2軸で考えていればよかったように思います。ソニーには組合がありましたが、まさに労使交渉という経営と社員(組合)間の調整が人事部の大きな役割の1つであったように思います。

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私の座右の銘「ネアカであれ!」

「ネアカであれ!」とは、私が新卒で入社したソニーの入社式において創業者(当時社長)の盛田昭夫氏が語られたメッセージの1つです。その年に限らず毎年毎年、新入社員に向けて語られていたメッセージですので、盛田さんはこの言葉にソニーとしてのとても大切な意味を込められていたものと推察します。入社式当日、私はこのメッセージを軽く聞き流してしまっていたのですが、その後の3か月に及ぶ新人研修を通じ同期と一緒に過ごすうちに、あらためて「ネアカであれ!」との盛田さんの言葉が思いおこされ、そしていつの間にか私の心の中に一抹の不安を抱かせる、そんな位置づけとなってしまったのでした。端的に言えば同期の多くは非常に明るく元気な面々がそろっていて、話はとても面白く行動もアグレッシブ、いつも公私ともに彼らが場を盛り上げてくれていたのですが、その中で、私自身は彼らほど明るくない、つまり「ネアカでない」と感じてしまい、この先、ソニーの中で頑張っていけるのか不安になってしまったのでした。学生時代、少なくとも普通にはコミュニケーションできると思っていたのですが、ソニーの同期の能力的な面はもとより各々が持つエネルギーレベルの高さに面食らったというのが正直なところでした。

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「熱き心」と「論理性」

「熱き心」と「論理性」は、著名な経営者三枝匡氏が提唱する経営人材の要諦ですが、個人的にはこれほど経営リーダーに必要な要素を端的に示したものはないと思っています。三枝氏が率いたミスミでは幹部社員を中心に三枝氏直々に指南する経営塾への参加が必須となっていましたが、そのプログラムは幾多のリーダー研修とは一線を画し非常に奥が深くかつきわめて実践的なもので、このプログラムに魅力を感じミスミに入社される方も多々いらっしゃるほどでした。その内容そのものについては、三枝氏の著書「V字回復の経営」や「戦略プロフェッショナル」、その他ハーバードビジネスへの寄稿記事など多くの書籍やメディアに取り上げられておりますので、ぜひそちらをご覧いただきたいと思います。

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経済は文化のしもべ

この言葉はベネッセ時代にお世話になった福武総一郎氏の言葉です。福武さんは非常にビジョナリーな方で、独特の表現を用いてコミュニケーションされることも多く、意図されたことをすぐに理解できないこともありましたが、その中でもとくに理解しきれずにいたメッセージが「経済は文化のしもべ」でした。福武さんは非常にアートに造詣が深い方でご自身で美術館をつくられたり様々な芸術活動に積極的でいらっしゃいましたので、ビジネスよりアートのほうを尊重していらっしゃるのかな・・など、当時は非常に失礼な解釈をしてしまったこともあります。 “経済は文化のしもべ” の続きを読む

人事のプロへ、私の成長ストーリー⑤「ただ、ひたすら貢献へ」

 私もすでに50代半ばの年齢となったことで自身のキャリアに関しては従来とは全く異なる感覚を抱くようになってきました。これまでは自身の成長がキャリア選択の中核を占めていましたが、もはやこの年齢となりますと、その観点はほぼゼロに近くなってきているように感じます。過去に在籍したソニーでは、その当時、55歳が役職定年とされており、皆がマネジメント的な立場から一律に外れてしまうルールが施行されていました。

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人事のプロへ、私の成長ストーリー④「自信とおごりは紙一重」

 ソニー、ベネッセ、サイバードでの様々な経験(それらは成功体験というより多くの失敗や苦労の積み重ねでしたが・・)を経て、ちょうど人事の経験も20年になろうかという時期、どうやら自分なりには人事としてそれなりのレベルに到達したとの感覚をもってしまっていたようです。大企業もベンチャーも経験し、経営環境に応じ個別最適/全体最適、ハンズオン/マネジメント、短期/中長期など様々な観点で物事を考え、その時々の環境に応じてバランスをとりつつ物事を進めるべきことを学び、実践してきたことで、なんとなくですが、どこにいっても通用する人事としての実力が身についてきた、そんな「自信(実は過信でした)」を知らず知らずのうちに抱いてしまっていたのでした。年齢的には40代の半ばでしたが、実はこの時期、光栄なことに採用エージェントの方々から新たなチャレンジの機会について、お声掛けを頂く機会も少しずつですが増えてきており、このようなことも生意気な自己認識の醸成に影響があったように思います。まさに今思えば「おごり」でしかないのですが、この勘違いこそがその後の経験において、痛い目にあうべくしてあうことになる、すべての間違いの始まりでした。結果を先に申しあげれば、その後の転職先である2社については、それぞれわずか半年、1年半しか、与えられて職責を務めることができずに会社を離れざるを得ない状況に陥ってしまったのです。

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人事のプロへ、私の成長ストーリー③「経営へ貢献する人事」

 当時のサイバードは創業して9年ほど、社員数は100名強という規模になっており、すでに創業期から成長期のステージに入っていましたが、サイバードに移ってから半年くらいでしょうか、私にとってはまさにカルチャーショックの連続でした。就業規則をゼロベースでつくる必要あり(過去に改訂した経験はありましたが、ほぼゼロから書き起こした経験はありませんでした)、採用広告を打っても人が全く集まらない(ソニーやベネッセでは考えられないレベルの集客)、労務問題に対して専門家の助けを得ることができない(専門家への相談コストをかける余裕がない)、容赦ないスケジュール/会議の設定(早朝や深夜のミーティング、しかも直前の設定はあたり前)、締め切りも準備期間なく3時間以内/今日中など、無理な設定が当然等々、経験を積み上げ人事のプロレベルに近づけていると思い込んでの転職でしたが、残念ながらまたも自身の力量不足を突きつけられた日々でした。なかでもスピード感のギャップは歴然たるものでした。IT業界に初めて身を置いたこともありますが、前職のソニーは業界ではスピード感がある会社のはずでしたが、IT業界(特にネット系)のスピード感の次元はこれまで私が経験してきたものとはまったく異なる次元にあったことは確かでした。

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人事のプロへ、私の成長ストーリー②「目指すは経営、大企業の中間管理職ではない」

 ソニーを離れる決断をしたことで、当時、想定していた以上に多くの経験、気づきを得ることができましたし、経営に貢献する人事という視点で見れば、一番の大きな気づきはプリミティブですが、やはり経営とは「厳しい」とリアルに実感できたことでした。職責を果たせなければ、目標達成に至らなければ、何が起こるのか明確に理解できましたし、若かりし頃は物事を右肩上がりでのみ考えていたことが音をたてて崩れていく、そんな現実を直視せざるを得ない状況に怖さを覚えたのもこのころからでした。結果的にベネッセを離れることになったのも、人事の責任者を担うからには、人事のプロを目指すからにはアップオアアウトを受け入れる覚悟をもつべきこと、そして何より自らの至らなさを強く認識したことが発端でした。こうして退職までの必要はなかったのでは、、と今でも言われますが、ベネッセでの人事部長は3年で終わりを迎え同時にベネッセを離れることになりました。

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人事のプロへ、私の成長ストーリー①「キャリアチェンジのすすめ」

 「人事のプロ」になるとの目標を定めたのは30代前半でしたが、自分なりに考えたその定義は「経営に貢献する人事」でした。とはいえ恥ずかしながら経営とは何かも全く理解できていない頃でしたので、目標に至るには、まずは人事全体そして会社全体を見ることができる、経営者に近しい立ち位置で人事を担うことが大切と考え、これを期に転職を考えるようになります。当時在籍したソニーは人事担当者の数だけでも数百人規模で人事全体や会社全体を見る立場に至るには10年、20年というレンジでさらに時を重ねる必要があったことが一番の要因です。いわゆる年功的な観点で部長職に就くことができるのは早くても40代半ばという時代、しかもそれは採用部長、研修部長、労務部長などの単一機能の責任者、もしくはカンパニーという単一事業を見るカンパニー人事部長の立ち位置でしかなく、ソニーの人事全体を見るためにはさらに時間を要しましたし、加えて当然ながら将来そのような職責を自身が任されるか否かは実力はもとより運も必要と考えたからでした。

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人事で働く人の使命

 私の考える人事で働く人の使命は「社員の人生を背負い、会社の命運を握る」です。言うまでもなく、重要かつ責任の重い仕事です。まずはこれを受け止める覚悟や気概なくして、よき人事の仕事はできないでしょう。極論ですがこれさえあれば、これさえブレなければ、必ずよき仕事ができるでしょうし、このような意識を持った人の集まりであれば、自ずと信頼される人事、存在感のある人事、強い人事になっていくことでしょう。そうです、人事に携わる人は社員の人生を背負っていますし、私たちの意思決定、行動如何によって、社員の人生は間違いなく大なり小なりの影響を受けてしまうことは紛れもない事実です。決して重荷を背負うべきと言うつもりはありませんが、自らの影響度の大きさは認識しておくべきと思います。

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