人事のプロへ、私の成長ストーリー④「自信とおごりは紙一重」

 ソニー、ベネッセ、サイバードでの様々な経験(それらは成功体験というより多くの失敗や苦労の積み重ねでしたが・・)を経て、ちょうど人事の経験も20年になろうかという時期、どうやら自分なりには人事としてそれなりのレベルに到達したとの感覚をもってしまっていたようです。大企業もベンチャーも経験し、経営環境に応じ個別最適/全体最適、ハンズオン/マネジメント、短期/中長期など様々な観点で物事を考え、その時々の環境に応じてバランスをとりつつ物事を進めるべきことを学び、実践してきたことで、なんとなくですが、どこにいっても通用する人事としての実力が身についてきた、そんな「自信(実は過信でした)」を知らず知らずのうちに抱いてしまっていたのでした。年齢的には40代の半ばでしたが、実はこの時期、光栄なことに採用エージェントの方々から新たなチャレンジの機会について、お声掛けを頂く機会も少しずつですが増えてきており、このようなことも生意気な自己認識の醸成に影響があったように思います。まさに今思えば「おごり」でしかないのですが、この勘違いこそがその後の経験において、痛い目にあうべくしてあうことになる、すべての間違いの始まりでした。結果を先に申しあげれば、その後の転職先である2社については、それぞれわずか半年、1年半しか、与えられて職責を務めることができずに会社を離れざるを得ない状況に陥ってしまったのです。

 2社とも全く異なる事業、ステージにある会社でしたが、私がうまく対応できなかった背景はほぼ同様でした。自ら語るのも恥ずかしい限りですが、端的に言えば社内の様々な関係者(内輪であるはずの人事のメンバー含む)とのリレーションがうまく構築できなかったのが一番の要因です。今でこそ冷静に振り返ることができますが、当時の私の心境としては「なぜみんな私が言っていることを理解できないのだろう」でした。確かにファクトベースでそれなりには深く考えるようになっていたので、転職間もない時期であっても自身の提案は相応のクォリティにあり問題解決に通じる可能性はあったかもしれませんが、本来はそのことを部内外のステークホルダーにきちんと理解していただけるよう粘り強くコミュニケーションしていくべきでした。ところがそれを怠るどころか、理解できない方が問題、ひいてはレベルが低いのでは?とまで思うに至っていたのが当時の私の心境でした。若かりし頃、私はあまり人に嫌われたり悪く言われることは少ない方と感じていたのですが、ここにきてその実感ももろくも崩れ去ることになります。そうなってしまうと何もかもがうまくいかず、どんなに熟慮した完成度の高いプランであっても実践に至らず、価値を出せない日々が続いてしまいました。結果としては当然のごとく会社を離れざるを得なくなってしまったのでした。

 過去に能力不足が原因でパフォーマンスが発揮できないことはありましたが、ここにきて初めてマインドセット如何で問題が生じることを身をもって体験することになってしまったのでした。人事にとっては顧客認識が重要といつも肝に命じていたにもかかわらず、まさに本末転倒、自らの「おごり」に端を発した失敗でした。しかもすぐにこの問題の構図を自己認識できたわけでもなかったため、その後のキャリアにおいても改善に至るには時間を要してしまったのですが、人間痛い目にあうと謙虚になれるもので、最近はなんとか顧客認識の大切さをあらためて念頭におきつつ、自身の考えを粘り強くそして何よりも真摯にステークフォルダーに向き合い、伝え、理解を得る姿勢を持てるようになってきたと思っています。

 実は「自信とおごりは紙一重」とは、私は20代後半にすでに強く認識していたことでもありました。その当時、私は少しでも早く成長したいと考えていたのですが、「自信」が醸成されると自身の成長は鈍化する、との危惧をもっていました。ですから成長し続けるには「自信」がもてる状況を目指し頑張りつつ、ひとたび「自信」がもてるレベルに至れば、すぐに「自信」がない状況に自らを追い込むことが必要と考えるに至ります。そのコツとして自ら考えたことは常に高い目標設定し続けることで、これは自分なりにとても大切なことと思えたため、気づいた瞬間に忘れることがないよう当時の名刺の裏に「自信/おごり」と大きく書き、名刺入れに忍ばせ持ち歩いていました。この名刺はその後もずっと(今に至るまで)携帯しているのですが、にもかかわらず、人事経験を相応に積み上げたゆえのいらぬ「自信」の醸成が、悲しいかな知らず知らずのうちに「おごり」に置き換わり、自らを失敗に導く源泉となってしまったのでした。

 人生100年時代を迎えようとしている今、40代になろうが50代になろうが成長し続けるべき、つまりいくつになっても高い目標を掲げ続けるべきと考えますが、私は至らずに継続的なストレッチを怠り、そのつけを払わざるを得ませんでした。誰しも努力して少しでも早く「自信」がもてるよう尽力しますが、一方で「自信」をもつということは「おごり」に通じること、そしてひとたび「おごり」を抱いてしまうと自身の成長が鈍化するだけではなく、パフォーマンスが発揮できず、ひいては会社や組織に貢献すらできなくなる、つまり居場所を失うリスクがある、との教訓をいい年をした40代半ばにして私はあらためて痛感させられたのでした。これはプロフェッショナルであれば当然の理でもありますが、残念ながら私の認識は全くもって不十分でした。端的にはプロと呼べるレベルに至っていなかったということでしょう。私は不惑どころか、悩み迷い続ける40代を過ごすことになってしまったのでした

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