人事のすすめ

 人事のプロになる、そう志してからすでに私の人事経験もすでに30年を超えるに至りました。 人事という仕事に向き合い、がむしゃらに毎日を過ごし、ひたすらに経験を積み重ねてきましたし、 同時に成長のためには理論と実践のバランスが肝要、と人事に関する本もむさぼるように読んできたものです。 多くの名著に出会い、多くを学ばせていただいたが、不思議なことに私がこれまで出会った 経営者や上司、先輩諸氏から直接受けた薫陶、心に響いたこと、痛感させらたこと、慚愧の念に至らしめられたこと、などが記してある人事関連の書に出会うことは 不思議と少なかったように思います。 

 人事の仕事は、人や組織という“ 生き物を”相手にします。日々が変化の連続であり 想定外のことや理不尽なことばかりが頻発する毎日であり、そのリアルな世界を原理原則やフレームワークに 落とし込むことは確かに難しいのでしょう。文章にしようと思えばアカデミックにならざるを得ず、 高尚ですばらしい考え方、と唸らされはするものの、実践的にはピンとこないものになってしまいます。あるいは実践重視でリアリティのあるものにしようと思えば、敢えて汎用的なものにはせず 特定の環境下での具体性を追求した、事例的な存在になってしまうのかもしれません。 つまるところ、まさに日々実践の最中にいる人事の人達に向けたいわゆるバイブル的な書はなかった、というのが私の認識です。 

 その意味で、人的資源管理や組織行動論的なアカデミックなものと違う、一方で労務的な専門知識を書き連ねたものでも、採用、教育などの特定の領域、テーマに絞って有意義であることを目指したものでもなく、人事で働く誰もが、自分たちの立ち位置、何が求められ、何をよりどころにして考え、そして 頑張っていけばよいのか、それを記した物があった方がよいとの強い想いを抱くに至りました。 

 果たして自身にそれが書けるのか、はなはだ心許なくはあります。しかし、私はこれまで人事のプロになるとの 志のもと、複数の会社を渡り歩き、様々な経営者の方々に師事し、時には忸怩たる思いを抱えながらも人事としての経験を愚直に積み重ねてきましたし、振返ってみると些細なことから大きなことまで毎日ように数限りない気づきがありましたが、それら1つ1つの気づきを、積み重ね、整理し、それらの因果関係を深堀することで、本質を突き詰めたある種のフレームワーク(いずれの企業でも相応にあてはまるものの見方、考え方、構図、コンセプト)が あることに気がつくに至りました。 ついては今回、意を決し、それらを見える化してみようと筆をとり始めた次第です。 

 私はこれまでひたすら人事の道を歩み続け、その仕事に誇りとやりがいを抱き生きてきました。昨今では人事の存在意義を問う声も多く、耳の痛い話ではありますが、今なお私はその仕事を少しでも 多くの人に勧めたいです。その想いを込めタイトルは「人事のすすめ」としました。もちろんこれからの時代、人事という仕事がどのように存続していくかは定かでありません。ただ社会が様々な組織で形成される以上、「人」の「事」に関わる仕事はなくならないでしょう。昨今、AIが進化し実用化されるような時代だからこそ、ますます重要度が増していることは間違いない、と私は考えます。だからこそタイトルも「人事のすすめ」でよいと考えています。 

 私の知見は稚拙かもしれませんが、それでも人事の世界に身を置き、毎日毎日人や組織と向き合い 尽力されている方々のお役に立ち、ひいてはこれからの日本の企業、組織を活力あるものにすべく 人事が経営や社員の期待、信頼を一心に集める存在へ進化、発展していくことに少しでも寄与できれば幸甚です。 

それではしばしの間、私の語りにお付き合いいただければありがたく存じます。 

 

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