人事が創る採用力

採用は人事にとってとても重要な領域ですが、昨今、リクルートさんのように採用をビジネスとして手掛ける会社が増えてきたこともあり、人事で採用に携わる人のアプローチが、最初からどこのエージェントさんにお願いするのか、どこに提案をしてもらうか、というところからスタートするのが当たり前になってしまっているようで気になります。本来はまずは自ら自社に必要な人を見定め、採用マーケットの状況を鑑みた上であるべき採用について考えるものだからです。ただこう言ってしまうと今度は人材要件をきちんと定めましょう、基準(コンピテンシー)やペルソナを設定しなくては、、といった話になってしまいます。もちろん正しいのですが、いきなりそのステップに入るのは私としては何か少し本質から外れているように感じられてしまうのです。

私は幸いにもソニー時代に非常にユニークな採用に触れることができ、経験浅かりし時から多くの刺激を受け目線を広げることができたようです。中でも一番印象に残っているのは「学校名不問」の採用方式でした。これはソニー創業者の盛田昭夫さんが提唱した「学歴無用論」(盛田昭夫著/朝日文庫)を採用の基幹となる考え方として取り入れたものです。当時(1980年代〜1990年代頃)、企業は偏差値に応じ上位校、中堅校など大学をランク付けし、いかに上位校の学生を採用するかに奔走するのが一般的な時代でしたが、そのような時代に学校名を聞かずに採用を行なっていたのは、おそらくソニーだけであったと思います。あえて学校名を書かないように、言わないように学生の皆さんへお願いしていたのですから徹底していました。採用担当の私たちが学校名を知るのは内定後、卒業見込み証明書を内定者から提出してもらった時で、証明書を受領する時、何ともいえない緊張感を味わったことを昨日のことのように覚えています。

学校名不問は、学歴ではなく実力主義を標榜するとても崇高な考え方に基づくもので、盛田さんは採用だけでなく評価や仕事を任せる過程で実力主義を徹底させようと、当時の社員の履歴書を全て処分してしまった事は有名なエピソードです。私たちも実現はとても難しいこととは感じていたものの、やはり盛田さんの目指す方向性に共感していましたし、何より人事として当時の学歴偏重の社会の風潮を是正するのはとても正しいと考えていましたので、それを具現化すべく採用のあり方について日々試行錯誤したものでした。

学校名不問の採用手法は副次的な効果もありました。それは採用関係者の面接等のクォリティを必然的に高めることに通じたことです。もし面接で迷ったらより大学名が上位の学生を採用した方が、たとえその人が将来、会社にマッチしないようなことがあったとしても後々文句を言われることが少ないのですが、そのような対応は学校名不問では不可能ですから。。そのため採用担当者のエントリーシート(これもソニーが初めて取り入れた自由応募を主導する採用手法でした)や面接に臨む真剣度合いは半端なく高かったと思います。エントリーシートでは多くの会社が学校名で一次スクリーニングしていたと推察しますが、ソニーではありがたいことにとても多くの応募を頂いていたにもかかわらず、担当者は一人当たり何千というシートに1枚1枚真剣に目を通し選考を行なっていました。面白いことに数千枚単位でエントリーシートを読み込むと、見るべきポイントや観点が自分なりにクリアになっていきますので判断のスピードは初期の段階より圧倒的に早くなり、質の向上とあわせ実感できるようになります。学校名だけで判断するよりも圧倒的にクォリティ高く、相応のスピード感で対応できるようになるのですから、やはり困難であってもあるべき姿を追求することで付加価値が高まることをあらためて認識させられました。

その他にもソニーでは様々な取り組みを行っていましたが、中でも一芸採用(一芸に秀でた人を採用する観点を大切にする)はとてもユニークだったと思います。これはどんな領域でも構わないので例えば日本一や世界一になった人をその一面をもって優先的に採用しようとすることで、人事的に非常に理にかなった採用方式と感じました。どんなにニッチな領域でもそれを極めることができた人は、別の領域でも同様に成功できる可能性が高い、人事のコンピテンシーの考え方に精通された方であれば、非常に人間の本質をついたことと理解できると思います。どちらかといえば、このようにある種の割り切りをもって採用を実行する勇気を持つことの方が難しいのですが、ソニーは目指すべき目的達成のために保守的スタンスはとりません、リスクがあるとわかっていても一歩踏み出すことができる、そんなカルチャーを有していた点が非常に素晴らしかったと思います。(このことはソニーを離れ、他の会社と比較検討することができるようになって、初めて自己認識できたことでもありました)

またこれは私個人の若かりし頃のチャレンジですのでややプリミティブですが、意識としては正しかったと思いますので、少し触れさせていただきます。私は1990年代の後半、ソニーマーケティングという会社の設立プロジェクトに人事として参加していました。当時、8社に分散していたソニーの日本におけるマーケティングや販売を司る機能を全て集約するための取組みで社員規模は5000人にも及ぶ大きな組織再編でした。その中で私の役割の1つに新会社での採用立上げがあり、非常に強い採用力を有していたソニー株式会社と伍すレベルの採用力をソニーマーケティングとしても確立させることが目標でした。

採用環境的にはちょうどインターネットが採用に活用され始めた矢先でしたが、とはいえほとんどの企業はホームページに採用情報を掲載するレベルのお試し段階にとどまり、まだまだリクルートさんなどの辞書型情報誌が学生の自宅に宅配され、そこから採用活動をスタートさせることが主流の時代でした。実はソニー株式会社は採用において圧倒的なステイタスがあったため様々な優遇措置を採用の世界で受けていたのですが、子会社になると例えソニーグループといえどもその恩恵にあずかることはできず、例えば情報誌の掲載に関しても、扱いが小さい、目立つ場所に載せられない、コストが割高などの制約を受けざるを得ませんでした。そのような背景もあり私は思い切って辞書型媒体等、紙メディアへの掲載を全て取りやめ、そのコストを全てインターネット採用のコストに投下することを決めたのでした。単に情報掲載だけではなくエントリーシートやセミナーへの参加登録など当時としてはまだマイナーであった双方向のインターネット活用に全面的にシフトしたのです。その時はもちろん採用環境を鑑み投資対効果として最良との判断に基づくものでしたが、さらにはインターネットという新しいテクノロジーに興味関心の高い人が「人のやらないことをやる」とのソニーのフィロソフィにマッチするとの思惑もあり、私としては一挙両得のプランと考えチャレンジした次第です。

その際、紙メディアへの掲載を取りやめたことで、リクルート社の担当から何度もインターネットだけで人が集まるはずがない、御社の採用は失敗すると言われ続けましたが、結果的には社内の関係者からよい人が採用できたと高い評価をいただき胸をなでおろしました。もちろん紙もインターネットも一緒にやれるとよかったのですが、予算の制約もある中、何かを捨てザルを得ず決断したわけですが、表向き絶対大丈夫と強がってはいましたが、やはりどこかで失敗してしまうのでは、、との怖さを抱いていたのが本音でした。実際、セミナー申し込みを開始した際、応募が殺到、サーバーがダウンし多くのクレームを受けてしまったこともありました。当時、どのくらいの応募がくるか読み切れていなかったのと、それ以前にアクセス数がメモリーやネットワークの容量に依存するとのインターネットの基礎知識も持てていませんでした。今思えば恥ずかしい限りですが、この種のトラブルや問題は多々あったと思います。それでも本質的には正しかったのでしょう、今でも風のうわさで当時採用した面々が活躍しているとの声を聴くたびに、あの時の採用はやはり成功だったとうれしく思えることがしばしばありました。決してインターネット採用の良しあしを語りたいのではありません。ただ人事も時としてチャレンジが必要なこと、特に採用のマーケティング的な領域では、新しいテクノロジーや手法が次から次へ出てくるため、その可能性を吟味し、時にはリスクテイクしトライすることがとても大切と思います。その道に精通した専門家が、”えっ”と思うことでも自ら考え抜いて生み出したプランであれば思い切って一歩踏み出すべきでしょう。

また私はソニー以外でも採用については多くの学びの機会を得ることができました。特にブランドがまだ認知されていないベンチャーであったサイバードでは、採用人気ランキング上位のソニーやベネッセとは全く別の視点での対応が求められ、多くの気付きがあったと同時に、従前は考え抜く姿勢が十分でなかった、採用に臨む姿勢の甘さを痛感させらレたものです。例えばセミナーを開催した時、人気企業と異なり想定した人数が集まらないことが多々ありましたが、そのような時、サイバードでは直前まで集客に全力を尽くすことはもちろん、セミナー開始の当日、直前の時間まで会場の座席数や座る間隔(1つ飛びで座らせるなど)を調整していました。人が集客できないままセミナーを始めてしまうと閑散とした雰囲気となり来場者のモチベーションは上がりませんので、その状況を少しでも回避するため当日の受付での学生の集まり具合を逐次会場側に共有し席数や座らせ方を最後の最後まで調整、より満席感を演出できるよう受付と会場担当が連携して対応していたのです。このように最後の最後まで緊張感を持って取り組む姿勢は大企業ではなかなか経験のできないことであったように思います。

同様に面接でも意識を180度変えて臨みました。ソニーやベネッセではたいへん有難いことに会社がOKすれば高い確率で入社承諾に至りましたので面接はアセスメントに意識を置いていればよかったのですが、サイバードでは逆にいかに自社に入社してもらうか、いわゆる口説きに重点を置かざるを得ませんでした。こちらがオファーしてもそれを受諾してくれる確率の低さに唖然とさせられるレベルでしたので。。面接で人を評価するのは最初の10〜15分くらいでしょうか、残りの時間はいかに自社に興味を持ってもらうか、入社したいと思ってもらえるかに全神経を集中させて会話を行いました。そのために私は特に来て欲しいと思う人との面接の際は、面接後の予定に余裕のあるタイミングでの設定を関係者にお願いしたものです。もしあと一歩で決断してくれると感じたならば、相手の時間さえ許せば面接の終了時間を気にせず存分に話をすることを意図したのでした。

また短い時間で判断するため、自分なりに面接の在り方について試行錯誤を重ね「リズム面接」と勝手に命名した手法も取り入れました。これは面接ではテンポよく質問を繰り出すことに注力し、それに相手がテンポ良く返してくれたことには突っ込みは一切行わず、逆にもし間があいてしまう、即答するなどテンポが他の質問と異なるケースがあれば、その話題に着目し徹底的に突っ込んで聞くようにする手法です。そのような部分にこそ相手の本音や本質的な部分が隠れていることが多いと感じたからにほかなりません。テンポ良くリズミカルに質問することは意外と難しいのですが、これはこれで採用担当としては大切な面接スキルの1つと考えます。コンサルの方は探索インタビューなる深堀手法をよく推奨してくれますが、これは時間さえ許せば非常に効果的ですが、先にお話ししたように実際の現場では時間が限られていますので、全てにそれを行うことは無理があります。皆さんもリズム面接など聞いたこともないでしょうし、これは私のまったくの独りよがりのアイデアですが、とはいえ過去に何千回と繰り返し繰り返し行ってきた面接を通じてたどり着いた手法です。私はその有効性を信じて疑わず、今なおこれをブラッシュアップすべく面接に臨んでいます。

以上、採用の世界では新たな採用手法が次々と提唱され、また昨今では「採用学」なるアカデミックなものまで登場する状況となっていますが、それだけ採用の重要度が世の中で高まっている証左でしょう。少子高齢化や慢性的な人手不足等、社会情勢も厳しい環境下で採用に携わる方々は大変と思いますが、一方でこれほど面白い時代、採用担当の腕の見せ所となる時代もないでしょう。ぜひ御社にとって、そしてご自身にとって最良の採用の在り方を考え抜き、そしてユニークな採用を創りだしていただきたいと思います。採用においては、実践に応じて大なり小なりの工夫を続けること、その過程で自分なりの最適解を見出すべく考え抜くことがとても大切なことと私は考えています。私もまだまだ採用のフロントに立ち続け「採用力」を高めるための何かを創るべくこれからも尽力していく所存です。

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